IPR(アイピーアール)とは略語で、正式名称は「inter-proximal reduction」と言います。 interproximal=隣接の reduction=削減 で、隣接面(歯と歯の境目)を部分的に削除するということです。 「ディスキング」とも呼ばれ、主に矯正において歯を移動させるために必要なスペースを確保するために歯と歯の間を0.1〜0.5mmの範囲で削ります。
歯列矯正では、歯を内側に引っ込めたり、重なって生えている歯をきれいに並べたりするためのスペースが必要になることが多いです。 大幅に歯並びを動かす必要がある場合は「抜歯」をしてスペースを確保します。IPRを行うと、抜歯をせずに歯をきれいに整えられ矯正治療ができます。
患者さんの中では、IPRが必要でない方もいます。たとえば、すきっ歯のすき間を改善したい患者さんの場合は、すきっ歯のすき間を利用して歯を動かすのでIPRは行いません。また、軽度な不正で前歯が1本ねじれているなどの場合には、スペースを作らずに矯正ができる場合もあります。
ただし、矯正治療をする方は歯と歯のスペースが足りない方がほとんどなので、多くの方がはじめに「IPR」か「抜歯」をして、歯を移動させるスペースを確保してから治療が始まります。
★痛みはあるの?
歯を削るため、痛みがあるのではと思われる方もいらっしゃると思います。IPRは痛みを伴わない治療で、麻酔も行いません。
歯の中には神経が通っています。虫歯の治療などで歯を削った場合、神経に届いた時に痛みを感じることがあります。虫歯治療での痛みは、エナメル質の内側にある「象牙質(ぞうげしつ)」という部分にまで進行していることも多く、象牙質まで歯を削ることになり、さらにその内側にある「歯髄(しずい)」という歯の神経に響くことで痛みを感じます。
画像引用:ライオン歯科衛生研究所
それに対して、IPRで削る範囲ははあくまで歯の表層であるエナメル質のみで、象牙質の近くまで削ることはないため、痛みを感じませんので麻酔も必要ありません。
さらに、削った部分の虫歯になる可能性は非常に低いです。
★その他の目的
IPRは、歯を移動させるための必要なスペースを確保する以外の目的でも行うことがあります。
・歯の大きさや形を整える目的
一人一人に、口元がきれいに見える歯の大きさや形のバランスがあります。IPRを使い、患者さんに合わせて、その方にとって1番きれいに見える歯の形態に整えることが可能です。矯正の治療以外でも、必要に応じて最後仕上がりを整えるためにIPRをすることもあります。
・ブラックトライアングル(歯と歯の間の三角形のすき間)を解消する目的
歯列矯正で歯が動いたことや、加齢などで歯茎が下がってしまったことによって、歯と歯の間に三角形のすき間ができてしまうことがあります。これを「ブラックトライアングル」と呼びます。IPRでは、このブラックトライアングルを解消することもできます。
・矯正治療の審美性を向上させる目的
IPRは矯正治療を開始する前に、歯のスペースを確保する目的で行うことが多いのですが、大部分の歯並びが整った後に、審美性をさらに向上させるためにIPRを行うことがあります。
インビザラインの矯正では、3次元的な画像を用いて、シミュレーションをしてからIPRを行いますので、歯を多く削る心配はありません。
このように、IPRは歯を移動させるために必要なスペースを確保するためだけでなく、様々な目的により歯の表面を削ることをしますが、痛みもなく麻酔なしで行うことができるので安心して治療を受けてくださいね。
この記事は、河底歯科・矯正歯科院長河底晴紀が書いております。
・歯学博士
・日本矯正歯科学会認定医
◾️所属
・FCDC
・福山市歯科医師会 理事
・一般社団法人福山市歯科医師会附属福山歯科衛生士学校 歯科矯正学講師